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村上春樹氏インタビュー Part1(ドイツのデア・シュピーゲル社)
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Part1 走っているとき、僕は穏やかなところにいる。

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SPIEGEL(以下E):村上さん、小説を書くのとマラソンを走るのでは、どちらがタフですか?

村上(以下M):書くことは楽しいですよ――たいていは。僕は走った後、毎日4時間は書くんです。大体10キロは走りますね。これを続けるのは簡単ですが、 42.195キロを完走するのは困難です。けれども、フルマラソンは僕が求める厳しさです。好んで自分に課した必然的な苦しみといったところでしょうか。それはマラソンを走ることの最も重要な側面です。

S:では、本を書き上げることと、マラソンのテープを切ることでは、どちらが楽しいですか?

M:物語の最後に、終止符をうつことは、子どもに生を与えるようなものです。比類のない瞬間です。幸運な作家は生涯におそらく12冊の小説を書くことができるでしょう。僕の中に、まだどれだけ良い本が眠っているかわかりませんが、 あと4、5冊は書きたいですね。走っているときは、そのような制限を感じることはありません。4年ごとに長編小説を出版していますが、毎年、10キロレース、ハーフマラソン、そしてフルマラソンを走っています。これまでに27のマラソンレースに出場し、今年(2008年)は1月に走り、28、29、30と自然に回数が増えるでしょう。

S:あなたの最新の本のドイツ語訳が、来週月曜日に発売されます。あなたは、ランナーとしてのキャリアを描いていますし、作家として走り続けることの重要性を論じています。なぜこのような自叙伝を書いたのですか?(『走ることについて語るときに僕の語ること』2007年10月に刊行されたエッセイ集のこと)

M:25年前の1982年秋に初めて走ってからずっと、どうしてこの特定のスポーツをしようと決めたのか自問してきました。なぜサッカーじゃなかったのか? なぜ初めてジョギングをした日に、自分を作家として真面目に実在させることにしたのか? 僕は物事を、自分の考えを記録する場合にだけ理解す傾向があるのです。走ることについて書いているとき、僕は自分自身について書いていると気がついたのです。

S:なぜ走ることを始めたのですか?

M:体重を落としたかったからです。作家を始めた最初のころ、ぼくはヘビースモーカーで、よく集中できるようにと1日に60本はタバコを吸っていました。黄色い歯や爪をしていました。禁煙を決意したとき、33歳でした。そうすると、腰のあたりに脂肪がついてきました。そこで、走り始めた、走ることは僕にとって最も実行しやすく思えたんです。

S:どうしてですか?

M:チームスポーツは僕の柄じゃないし、自分のペースでできるなら、身につけやすいかなと。それに、ランニングするのにパートナーは必要ないでしょう。テニスのように特別な場所も必要ないし、 運動靴があればいい。柔道も僕には向いていないし、格闘家ではない。長距離ランニングは、他人との勝ち負けといったことじゃない。対戦相手は自分自身だ。誰も巻き込むことはないんです。けれども、内面では戦いに参加している。前回よりタイムは上がっているだろうか? 何度も限界にいどむこと、それがランニングの本質です。走ることは苦しいですが、苦痛は立ち去りません。癒すことはできます。僕のメンタリティーと調和するんです。

S:当時はどのような調子でしたか?

M:20 分もすると、息が切れ、心臓がバクバクし、足が震えました。初めのころは、他人が僕が走るのを見るのが居心地が悪かった。でも、ランニングが歯を磨くように僕の1日に溶け込んでくると、急速に成長しました。たった1年で、民間のレースとはいえ、初めてマラソンを走りました。

S:あなたは、お一人でアテネからマラトンまで走りましたね。あなたに訴えたものは何ですか?

M:そうですね、マラソンの起源ですし、由来とは逆のルートを走ったのは、ラッシュアワーのアテネにゴールしたくなかったからですが。僕は35キロ以上走ったことはありませんでした。足と上半身がまだそれほど強くなかったし、何を求めていたのかわかりませんでした。未知の土地でのランニングという感じでしょうか。

S:どのように成し遂げたのですか?

M:7 月で、暑かった。朝早かったのに、とても暑かったんです。ギリシアに行ったのは初めてで、驚きました。30分ほどでシャツを脱ぎました。少し経つと、氷のように冷たいビールを空想し、道端に沿って横たわる死んだような犬と猫を数えました。太陽に腹を立て、太陽は僕をジリジリとやりこめました。小さな水ぶくれが皮膚にできました。3時間51分というまずまずのタイムでした。ゴールに着いたとき、ガソリンスタンドで自分にホースで水をかけ、夢にまでみたビールを飲みました。ガソリンポンプの係員が、僕のしたことを聞いて、花束をプレゼントしてくれました。

S:マラソンのベストタイムは?

M:僕の時計で3時間27分です。1991年にニューヨークで出しました。1キロ5分のペースですね。コースの最終直線コース、セントラルパークまでがとてもきついので、そのタイムをとても誇りに思います。そのタイムを更新しようと何度かトライしたのですが、僕は歳をとっていきます。そのうち、ベストタイムを更新することに興味がなくなりました。僕にとっては自己満足のようなものなのです。

S:走っている最中に唱えるおまじないのようなものはあるんですか?

M:いいえ、ありません。一度だけ、つぶやいたことはあります。「春樹、大丈夫、うまくいく」 ですが、実際、走っている最中は何も考えません。

S:何も考えないなんてできるんですか?

M:走っているときは無心になるんです。道のりに従うことだけを考えています。ランニング中に僕につけ入る思考は、ほのかな一陣の風のようなものです。それは不意に現れ、何も残さずまた消えてしまう。

S:走っているとき音楽は聞きますか?

M:トレーニングのときだけです。そのときはロックを聞きます。今のお気に入りは、マニック・ストリート・プリーチャーズですが、朝のジョギングでは、特別にクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルをミニディスクプレーヤーに入れていきます。彼らの歌はシンプルで、リズムが自然なんです。

S:毎日どのようにしてモチベーションを保っているのですか?

M:走るには暑すぎるときもあれば、寒すぎたり、どんよりした日もありますが、それでもランニングに出かけます。その日行かなければ、次の日も行かなくなるだろうと思います。必要のない負担をかけることは人間性に反するので、人の身体はすぐになまけてしまいます。それではいけません。書くことも同じです。毎日書くことで、僕の心はなまけないのです。そうすることで、文学の尺度を徐々に高めていくことができるのです。規則的なランニングがあなたたちの筋肉を徐々に強くしていくように。

S:あなたは一人っ子として育ちましたし、書くことは孤独な仕事です。また、いつも一人で走っています。それらの間に何か繋がりはありますか?

M:その通りです。僕はずっと一人でした。そして、妻と違って、一人でいることを楽しんでいます。一緒に行動するのは好きではありません。結婚して37年になりますが、そのことでしょっちゅう喧嘩します。前職で、僕はよく夜明けまで働きましたが、今は9時か10時にはベッドに入ります。

S:作家やランナーになる前は、東京でジャズクラブを開いていたんですね。これ以上急激な人生の転換はないのではないでしょうか。

M:クラブをやっていたとき、僕はバーの後ろに立っていました。会話に参加するのが僕の役目でした。7年そうやってきましたが、僕は口数が多い人間ではない。僕は誓いました。『ここを辞めたら、本当に話したい人にだけ話すぞ』と。

Part2 小説を書くことがわかった。
(7月8日掲載)につづきます。


The interview was conducted by Maik Grossekathöfer

原文:2008.2.20 SPIEGEL Online International
http :// www.spiegel.de/ international/ world/ 0, 1518, 536608, 00.html


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